文Tube 「馥 郁」
2020.7.29
私は馥郁という言葉が好きであり、
私のモノづくりのテーマは馥郁である。
意味は、「良い香りがする様子、さま」で
実際に香りがするわけではなく、雰囲気やオーラの
ようなものである。
馥郁という文字は見た目に仰々しいので、
以降少し柔らかく「香り」という言葉を使う
ことにする。
当社の店づくりは「姫路らしい香り」を
意識している。
では姫路の「香り」とはどのようなもの
なのだろうか。
「姫路といえば姫路城」というように、
私は「姫路の香り」がお城に偏る事にいささか
抵抗がある。
私はこの象徴ともいえるお城を少し横において
姫路らしい「香り」について話したい。
姫路の中心市街地にはお城に続く道「大手前通り」
がある。通りの両脇には大手企業の支店や
銀行などが立ち並び、そのまた両脇には個人商店や
飲食店が軒を連ね、周辺は観光客と近隣住民、
ビジネスマンが行き交う。「日常」と「非日常」が
混在しており、人の流れが京都とどこか似ている。
姫路駅北店はそんな「日常」と「非日常」が
行き交う街の中に溶け込めるようにと
「京都にあっても違和感の無い店」
をテーマに作った。
しかし市街から一歩外に出ればどうだろうか。
本店があり、私が幼少を過ごした蒲田は、
緑あふれる山々に囲まれ、水を湛える川が流れ、
そこには昔ながらの集落が残る。
姫路城の築城の折に使われたとされる
岩山もあり、岩山の麓には築百年近い家屋や
当時から行われている行事などが
当時のまま残る。
そして、山々を背に海に向かって川を下り、
浜手に足を延ばせば我が国の経済成長を支えた
ものづくりの「伝統」が広がり、
「自然」と「伝統」が共存している。
そう、私の考える「姫路の香り」は、
「日常、非日常、自然、伝統」である。
長松店は、築80年の古民家を改築し、
カフェと和菓子店を仲良く一つ屋根の下に置いた。
日常と非日常が入り混じる空間である古民家に、
姫路の伝統を象徴する「鉄」を多く使用し、
私の感じる「姫路の香り」を表現した。
是非お運び頂き、「姫路の香り」を
お楽しみ頂きたい。
実は創業12年となる今年、本店を思い切って
全面改装に踏み切った。開業当時、コンセプトも
「香り」も考えず、がむしゃらに作った店ゆえに、
店舗のデザインが今の思いと、私が作る菓子に
合わなくなってきたからだ。
店内はというと、メインとなる正面の壁は、
一面、鉄と石と合わせたような特殊な塗装を施し、
「石山」と「鉄」を表現した。
天井とショーケースのフレームには木材を使用し、
「自然との融合」を表し、3面の壁と
ショーケースは前回とは逆に黒に仕上げた。
イメチェンである。
本店は本店として象徴でなくてはいけない。
一番古くも一番新しくなったこの本店は、
今の私の思いを具現化した店である。
こちらも是非ご覧頂きたい。
姫路の香りがお城に偏る事にいささか抵抗がある
と冒頭申し上げた。別名「白鷺城」とよばれる
優美な姫路城は「我々の誇り」であることは
間違いない。しかしながら、播磨国風土記に
その記述があるように、古くよりこの地域には
人々の暮らしがあり、姫路城はその一部を彩る
いわば「歴史の絵の具」のようなものである。
太古より綿々と受けつがれている
「日常、非日常、自然、伝統」が
私の考える「馥郁」であり、「姫路城に盲目で
あってはならない」というささやかな抵抗から
招いた誤解があれば、どうかご容赦いただきたい。